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オメガのムーブメント機構にはコーアクシャルという独自の技術が使われている、というのは有名ですが、
- 他の時計と比べてどうすごいのか
- ”マスター”モデルや”マスタークロノメーター”とは何が違うのか
など、疑問に思うことはありませんか?
この記事では、コーアクシャルについて解説し、マスタークロノメーター認定されたモデルとオーバーホールの頻度や精度がどのくらい違うのか記事にしています。
この記事を読んだ後、腕時計への愛着がさらに増していることでしょう。
オメガのコーアクシャルとは
正式には「コーアクシャルエスケープメント」で、「同軸」を意味する独自の技術として有名になりました。
今から20年以上前の1999年にキャリバー2500に搭載されたこの技術は、機械式時計のムーブメントにもたらされた250年ぶりの技術革新として注目されました。
当時、複雑な機構のため限定生産品への搭載がせいぜいと考えられていたにも関わらず、機構を量産化することに成功しました。「職人魂、ここに極まれり」ですね。
名前の由来はエスケープメント=「脱進機」にある
エスケープメントは機械式時計ムーブメントの心臓部で日本語では「脱進機」と呼ばれています。
一般的な時計に採用されているレバー脱進機は、ツメ部分(アンクル)が2つ、引っかかりのある形状のガンギ車も1つになっています。
コー アクシャルの場合、ツメ部分(アンクル)が4つあります。見てすぐに分かる3つと別に、テンプという部品の下に振り石とは別の4つ目のツメがあります。
ガンギ車は大きさと形状の違う2つが同じ軸棒に並んでいる構造になっていて、「同軸」の名前の由来はココにあります。
メリット=パーツ寿命が長い
機械式時計が動く仕組みは、巻き上げたゼンマイが解ける力を長時間、適切な力配分でコントロールすることで歯車を決まった回数動かしています。
なぜこの脱進機だとゼンマイの力を配分するために接触し合って消耗しやすいパーツが長持ちするのでしょうか。
脱進機のツメ部分(アンクル)とガンギ車のくぼみは、1秒間に5~10回触れ合うのでパーツの中でも一番ダメージを受けやすいパーツになっています。
脱進機のツメ(アンクル)が4つになり、2つのガンギ車と組み合わさったことで、ゼンマイの力を抑えるために各パーツにかかる力が分散され、同じ回数触れ合ってもすり減りにくくなりました。
また部品をスムーズに動かすための注油も少なくて済み、オイル切れや油自体の酸化も大幅に減らすことに成功したのです。
ヒゲゼンマイは巻き上げては戻りを繰り返すので、オーバーホールの際に必ずと言っていいほど交換される消耗品です。ヒゲゼンマイも進化しており、今はシリコン製でその薄さは髪の毛の1/3ほどになっており、磁気帯びによる故障を減らすことにも貢献しています。
シリコン素材になって200℃の熱にも耐える耐熱性能が加わり、金属につきものだった酸化(錆)にも強くなりました。
さらに振動数の狂いが減ることで精度の面でもメリットがあったので、いいことづくしのパーツになりました。
この結果、通常の機械式時計は3~5年に1度はオーバーホールするのが望ましいと言われる中、5~7年に1度、使い方や状態によっては8~10年に1度のオーバーホールで使用できている事例もあると言われていて、
オーバーホール間隔の長さから
「普通の時計よりメンテナンスが少ないです」
と強みとしてセールスで語られることも多くなっています。
デメリット=メンテナンス先の減少
数々の革新的な技術が注ぎ込まれたことによってパーツの寿命は伸びました。
性能が向上したことで、時計本来の役割を保って長く使い続けられるのはユーザーにとって喜ぶべきことです。
しかし、製造工程を見ると分かりますが、もともと細かい部品を多数組み合わせているうえに、今や顕微鏡を使ったり機械で組み立てるプロセスも増えています。
そうした細かいパーツが増えたことや独自の構造になったこと、さらには素材の特殊性から流通が限られているなどの理由によって、
「ご依頼のモデルは別途料金がかかります」
「キャリバー8000台や9000台はメーカー修理をおすすめします」
といったように、時計修理店によってはオーバーホールの際に追加料金を上乗せされたりオーバーホール自体を断られることもあり、
メンテナンスの面では誰でもオーバーホールできる時計ではなくなりつつあることも知っておく必要があります。
正規サービスはもちろん、メーカー技術者が在籍したり、経験が長く腕のいい修理店にメンテナンスを依頼することが重要です。
コーアクシャル、”マスター”モデル、マスタークロノメーターの違い
実際にネットなどで時計を探していると「MASTER CO-AXIAL CHRONOMETER」と書いてあるモデルがあったり、
店舗の時計売り場で時計を見てみると、「CO-AXIAL MASTER CHRONOMETER」と書いてある時計が多くあります。
オメガスピードマスターには何も書いてない・・・もしかして搭載されていない?
性能面でも違いがある場合があるので、それぞれの機構について解説します。
”マスター”モデルとは
”マスター”モデルは対磁気性をさらに高めた機構です。誕生したのは2014年ですが、現在ではこの表示のあるモデルは生産終了のために在庫や中古品が中心です。
これまでの対磁性能は1,000ガウスまでと言われていますが、”マスター”モデルの場合、エスケープメントの構成パーツ自体にも非鉄素材のチタンなどを採用することで、公式では15,000ガウスまで、非公式には85,000ガウスまで耐えられる性能があるそうです。
シースルーバックなどは対磁性能の証明、自信と確信の表れと言えるでしょう。
15,000ガウスまでの対磁性能はMRIを通過しても影響を受けないほど。
普通の時計が50~100ガウスの磁気で影響を受けてしまうのと比べても、圧倒的な差があります。ちなみに、ISO(国際標準化機構)が義務付けている腕時計の対磁性能は20ガウスまでだそうです。
ですが、性能を過信して電化製品の近くに長時間置いておくのは良くないので、保管場所にもなるべく気を付けたいところです。
負荷をかけずに巻き上げるワインダーも手ごろなものがあるのでおすすめです。
マスタークロノメーターとは
その後も技術の進歩は進められ、新たな腕時計の認定規格まで作られました。
スイス クロノメーター検定協会(C.O.S.C.)の認定を受けた”マスター”モデルのムーブメントを搭載した腕時計を、さらにスイス連邦計量・認定局(METAS)による10日以上に及ぶ8つのテストで検査し、検査を通過した腕時計に与えられる認定、それが「マスタークロノメーター」です。
認定は2015年から実施され、もちろん最初に認定条件をクリア。自ら定めた規格なので当然かもしれません。現在はチュードル(チューダー)の腕時計も認定されています。
このテストを通過した機械式腕時計は、とんでもない対磁気精度と、とんでもない耐久性(防水、耐熱)を持っていることが検査されていますので安心して購入することができます。
時計精度は1日0~+5秒の条件をクリアしなければ通過できません。防水性能も完全に時計を水中に浸水させて加圧して検査されます。
METASによるテスト項目は以下の8つです。
- 15,000ガウスの高磁場環境でムーブメント単体での振動音チェック
- 15,000ガウスの高磁場環境でケーシングして振動音チェック
- 15,000ガウスで帯磁させ24時間後に公式電波時計との差異を確認、その後消磁して24時間後に再び公式電波時計との差異と確認。帯磁、消磁それぞれの時刻差が基準内かチェック
- 温度や姿勢を変えて公式電波時計との差を計測し、計測期間内の平均が1日あたり0~+5秒以内かチェック
- 姿勢を6通りに変化させ公式電波時計との差をデルタ(最大と最小の差)として算出し基準内かチェック
- パワーリザーブ100%と33%、それぞれの時刻差が基準範囲内かチェック
- パワーリザーブ100%から所定の時間経過後の公式電波時計との差が基準範囲内かチェック
- 水中で30~150気圧の(ダイバーズモデルはさらに+25%で)加圧、引き上げ45℃で加熱、その後冷水を垂らし内側が結露しないかチェック
ダイヤルの「CO-AXIAL MASTER CHRONOMETER」の文字は、C.O.S.C.とMETASの検査を通過した証というわけです。
オーバーホールの頻度はどれくらい違うのか
機械式腕時計は、3~4年に1度はオーバーホールした方がいいと言われています。
普通に使っていれば5~7年に1度のオーバーホールになる印象です。マスタークロノメーターモデルは7~10年に1度のオーバーホールでいいと言われているので、
ざっくりと比べると、機械式時計の3倍、マスタークロノメーター以外のモデルの2倍オーバーホールの間隔が伸びたと考えることができそうです。
日差はどれくらい違うのか
マスタークロノメーター以外のモデルはオーバーホールに出すと、日差は±15~20秒前後で戻ってくる店が多い印象です。店舗や職人によって差も出ると思いますが、この水準は時計修理店の中でも上位の整備結果に入ってくると思います。
マスタークロノメーターは±5秒以内でないと認定されないので精度も3倍向上と言えます。
しかし、困ったのはこの水準になってくると正規サービスに出さないと性能が維持されないのではないかと思えてくる点。専用の機器がないとオーバーホールや組み立てが難しいのでは、と。
マスタークロノメーターモデルを「いつまで正規サービスに出し続けるか」、損益分岐点が問題になってきそうです。
本体の価格も上がっているのでどうしてもトータルのコストが上がるのは仕方ないですが、おそらく最長40年(4回の正規オーバーホール)を経る頃には、買値と同じくらいのメンテナンスコストがかかっているのではないかと思います。
最新モデルは無理そうな場合は、マスタークロノメーターモデル以外で状態のいいものを中古で探し、お手頃なオーバーホールで使っていくという選択肢も出てくるかもしれません。
技術や性能の進化がコストに跳ね返っていますが、他メーカーに比べればまだまだ良心的です。
実は独自の技術だったわけじゃない?
独自の技術なのだから自社で開発したと思いきや、実はそうではありません。イギリス人の発明家であり時計師でもあったジョージ・ダニエルズ博士(1926年~2011年)が1978年に考案した脱進機の機構を1993年に買い取ったのが始まりです。
複雑な機構のため量産の道は困難を極め、当時スウォッチグループのETA社が量産に取り組んでいたものの、断念しています。
他の時計メーカーも関心を示さなかったようで、当時の時計職人たちは「あんな複雑な機構の時計が量産できるわけない」と言っていたそうです。
その後は、搭載することができる条件を満たしたキャリバー1120をベースにグループで開発が進められ、1995年に試作品が完成し、そこからさらに4年後の1999年にデビューすることになったのでした。
現在に至るまで飽くなき探求は続き、さらに高い対磁気性能や精度を持つモデルを製造、量産することに成功しています。
それなのに価格が100万円を切るモデルが比較的多い背景には、製造工程の機械化や効率化等、相当な企業努力が背景にあると考えられます。
どのモデルを探すか
メンテナンスしやすいけれど性能面では最新のものよりは劣る初期のモデルか。
メンテナンスできる場が限られる代わりに最先端の技術が施されたマスタークロノメーターか。
どちらもいいと思います。
初期のコー アクシャルは精度の面、対磁気性能の面で現行のモデルに比べ個性があります。それでもいい修理店を見つけられれば、コストも抑えつつ長く使っていくことができるでしょう。
遠い将来、アンティーク化している可能性も0ではないかもしれませんね。
初期モデル(キャリバー2500)
1999年~2013年頃までに生産されたモデルには初期のキャリバー2500が搭載されているものがあります。
分解して組み立てている動画などもあるので見てみて下さい。
キャリバー2500でも相当小さい、ピンセットの先端くらいのパーツをいくつも使っています。
シーマスター、シーマスターアクアテラにも搭載されている
キャリバー2500はシーマスター、シーマスターアクアテラにも搭載されています。
状態のいいものは販売時点の定価と同じかそれ以上の値段になっている場合がありますが、新品の半額くらいで手に入れることができます。
オークションやフリマなどではなく、オーバーホール済みの商品を店で購入するのが安心です。
現行のキャリバーよりもオーバーホール代金は安い傾向
すべての店を見ているわけではありませんが、キャリバー2500は、キャリバー8500や8800などに比べるとオーバーホール代金は安くなる傾向が見られます。
調べた限りでは大体10,000円くらいの差がありました。
スピードマスターは一部モデルに搭載
スピードマスターにもマスタークロノメーター搭載モデルはありますのでご安心下さい。ただすべてのモデルに搭載されているわけではなく、搭載しているモデルは最新のものか、少し前の自動巻きモデルになっています。
スピードマスターと言えば手巻きなので、マスタークロノメーターにこだわるなら最新のラインナップから選ぶ方がいいでしょう。
自動巻きがいいなら少し小さめの38MMモデルかレーシング、値は張りますがムーンフェイズ、それかキャリバー3313、9300の中古品を探すことになります。
キャリバー321:ムーンウォッチに搭載、2019年に復活し生産再開、手巻き
キャリバー861:1986年リニューアル以降のモデルに搭載、手巻き
キャリバー1861:1997年マイナーチェンジ以降のモデルに搭載、手巻き
キャリバー3313:2008年リリースのモデルに搭載、CO-AXIAL、自動巻き
キャリバー9300:2カウンターモデル等に搭載、CO-AXIAL、自動巻き
キャリバー3861:CO-AXIAL、マスタークロノメーター認定、プロフェッショナルモデルに搭載、手巻き
中古品探しも店選びが大切
中古品を探す時でもその店がきちんとした仕入れルートを持っているかなど、よく確認することが大切です。
古物商の登録はもちろん、できる限り株式会社化している法人が運営している運営歴10年以上のところや、資本金が多めのところを選ぶようにしましょう。
店の屋号や会社名をよく変えているところもあまりおすすめしません。
個人的には、買取や販売を専門でやっている方がいいと思います。買取をしている店がオーバーホールもやっていることがありますが、どちらかに特化している方が品質が高いような印象があります。
コピー品は買わない
高級腕時計のコピー品は精巧につくられていて、普通に見ただけではわからないこともあります。コピー品であることを隠さずに売っている店もあるので、利用しないようにしましょう。
コピー品は中身をみればすぐにわかると言われており、もちろんオーバーホールはできません。その割には値段が高く、数万円払うことになります。
同じ金額を払うなら国産ブランドの電波時計やApple Watchを選ぶ方がいいでしょう。
オメガのコーアクシャルと”マスター”モデル、マスタークロノメーターのまとめ
オーバーホール間隔が長い面だけではない、対磁気性能や精度の面でも大きな差とメリットを持つ腕時計ですがメリット、デメリットとしてまとめます。
- パーツの寿命が長くなった
- オーバーホールの間隔は長ければ7~10年に1度になった
- 故障やオーバーホールが減りコスト面で有利になる傾向
- 対磁気性能が高まり、精度が狂いにくくなった
- 他の時計にはない特徴なので特別感があり愛着が深まる
- 長持ちするのでファンが増え買取価格が上がる
- 本体の値段が多少上がってしまった
- オーバーホールできる店が限られるおそれ
- オーバーホール時に販売時点の性能を確保するのが難しくなる
- 正規のコンプリートサービスの利用によるメンテナンスコスト負担増
ユーザーにとってのメリットが多い反面、メンテナンスについては少しデメリットになり得る要素もあり、長い目で見た時にどうなのか考えてしまいますね。
どのくらいの可能性かは分かりませんがプラスの要素としては、
- 退職後など、修理店で働く元メーカー技術者の存在
- 時計技師の修理技術の向上
- 為替レートの変動で多少価格が安くなる可能性
もあり、正規サービスを使わなくてもオーバーホールできる修理店が増えていったり、正規サービスの値段が少し下がる可能性もあります。
正規サービスであっても品質はピンキリです。腕利きの店や技術者に出会えれば、どんなモデルでもリーズナブルな価格でメンテナンスを続けて行くことができるので、他の記事にある口コミなども参考にされて下さい。
最後までお読みいただきありがとうございました。